第10回東アジアと同時代日本語文学次世代フォーラム 個人研究発表・パネルセッション募集
東アジアと同時代日本語文学フォーラムでは、2022年度次世代フォームの発表者を募集しています。日程と会場は以下のとおりです。なお、院生以外が発表する「本大会」の募集は、今回はありません。またフォーラムはオンラインで開催します。
大会日時:2022年は10月15日(土)
場所:オンライン
テーマ:
(1)日本語文学・文化についての研究 [テーマ自由]
「東アジアと同時代日本語文学フォーラム」の趣意に合致することが望ましいですが、必ずしもそれに限定しません。同フォーラムについては、雑誌『跨境 日本語文学研究』最新号(http://bcjjl.org)、もしくは下記ページをご参照下さい。
(2)大会特集「トラベル・ライティング——その可能性と限界」に関連する研究
特集の趣旨文は本ページの下部をご参照下さい。
応募資格:大学院生。発表言語は日本語および英語とします。
応募方法:各フォームよりご応募下さい。
中国からの個人発表:http://jp.mikecrm.com/Sy7rjy7
中国からのパネル発表:http://jp.mikecrm.com/BIUNYBJ
締切:3月31日(木)必着
審 査: 応募いただいた内容は、同フォーラム大会運営担当者によって審査し発表の可否を判断します。可否の通知は4月中旬を予定しています。なお、審査通過後の発表内容の大幅な変更は、原則として認められません。
原稿提出: 本フォーラムでは予稿集(PDF)を発行します。予稿は、既定のフォーマットで、一人あたりA4で2ページ以内となります。原稿の〆切は9月中旬を予定しています。
問い合わせ先:forum.eastasia.jlit@gmail.com (東アジアと同時代日本語文学フォーラム事務局)
第10回東アジアと同時代日本語文学次世代フォーラム・特集趣旨文
トラベル・ライティング——その可能性と限界
旅は空間の移動がもたらす自己と他者との相互作用であり、旅を契機とする他者との出会いや自己への内省は文学作品の重要な着想源であり続けている。近代以降、移動の自由化や交通網の発達、植民地の拡大などに伴って、多くの作家が国内外のさまざまな土地を訪れ、そこでの見聞を書き残した。遊興や訪問、留学、ツーリズム、ジャーナリズム、戦争、植民地主義、招聘、追想、慰霊など、さまざまな動因が文学者たちを突き動かした。本企画は、旅行体験にもとづいて書かれた文章を包括的に「トラベル・ライティング」と捉え、その可能性と限界を探ろうとするものである。
旅の経験が書かれる文章のジャンルは多様である。紀行文やルポルタージュから、旅行記や書簡、さらには海外体験に取材した小説や詩に至るまで、旅の文学の裾野は広い。これらの旅にまつわるテクストを総称して「トラベル・ライティング」と呼ぶ。しかし、フィクションであれノンフィクションであれ、旅の体験は無媒介に旅のテクストに編成されるわけではない。客観性が重視されるジャンルの文章でさえも、旅先の出来事が旅のテクストに「翻訳」される際には、旅行者の先入観やイデオロギーの媒介を免れえない。また、長い時間が経過した後に旅行記が書かれる場合、そこには記憶と忘却の力学が介在するだろう。トラベル・ライティングは、異郷とその他者をめぐる記憶と認識の問題を提起するのである。
他方、異郷で出会う他者や風物が旅行者の価値観を揺るがし、新たな認識をもたらす場合もある。そのとき旅は、自文化の自明性を動揺させ、旅行者に自己変容や歴史認識の改変を迫る契機となるだろう。トラベル・ライティングは、自己と他者との相互交渉がもたらす「越境」の記録ともなるのだ。
また、人々は旅によって、移動した先である異郷と移動する前にいた故郷という概念を持つことになる。旅の体験が記された作品では、他者との出会いの場である異郷だけでなく、故郷への言及を通じた自己への内省がなされる。いわば、旅行者は異郷を通して故郷と出会い直すのである。異郷や故郷は実在の土地であることに加えて、旅という経験を通じて対象化される、旅する者の想像力が大きく関与している空間だと言える。
さらに、旅は近代社会と自然との関係性を認識する契機となってきた。近年、地球環境の破壊への危機意識を受けて環境批評(エコクリティシズム)が注目を集めているが、旅先の風景や、人間と自然との関係性に焦点をあてるネイチャー・ライティングは、いかに自然と対話し、共生すべきかという問題をつきつける。トラベル・ライティングに描かれた異郷の自然は、近代化が環境にもたらす弊害やその背後にある人間中心主義を再考するうえで重要な知見を提供してくれるだろう。
新型コロナウィルスの感染と流行によって、現在多くの人々が移動の制限を受けている。このことは、いかに現代の私たちが、移動の自由を享受していたかを気づかせてくれた。同時に、その自由を獲得するに至るまでには、さまざまな制限が存在していたことも思い起こすことになった。
いま多くの学会がオンライン開催を余儀なくされているが、研究においても、人や土地との出会いは自らの思考の枠組みを組み替えていく貴重な機会でもある。旅の機会が減少している今だからこそ、トラベル・ライティングは検討すべきテーマとして浮上してくるだろう。
トラベル・ライティングは旅先の風景や出来事を記述すると同時に、旅行者自身やその文化や自然に対する価値観・先入観について雄弁に物語る。本大会は、トラベル・ライティングに書き込まれた他者との出会い/出会いそこない、人間と自然の交渉のあり方の検討を通して、同時代における「越境」の諸問題を再考する契機としたい。
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